佐賀大学が実用化に成功したダイヤモンド半導体

半導体

ダイヤモンド半導体とは、未来の電子機器やエネルギー変換技術を変える可能性を秘めた素材です。
ダイヤモンドは宝石として知られていますが、その中でも特別な性質を持つものがダイヤモンド半導体です。
通常の半導体材料とは異なり、ダイヤモンド半導体は優れた放熱性、耐電圧性、そして耐放射線性を持っています。

その未来への可能性は広がりつつあり、今後の研究と開発が注目されています。
ダイヤモンド半導体は、私たちのデジタル未来に大きな変革をもたらすかもしれません。

そのダイヤモンド半導体を佐賀大学が世界初となるパワー回路を開発しました。

ダイヤモンド半導体とは?

ダイヤモンド半導体とは、ダイヤモンドの結晶構造を持つ物質で、電気を通すことができる半導体の一種です。
ダイヤモンド半導体は、他の半導体と比較して、非常に高い放熱性、耐電圧性、耐放射線性などの優れた特性を持っています。
これらの特性は、ダイヤモンド半導体が高温や高圧、高放射線などの過酷な環境においても安定した動作をすることを可能にします。

ダイヤモンド半導体の特性と優れた性能

ダイヤモンド半導体が他の半導体と比較して優れている点について詳しく説明します。
まず、放熱性についてですが、ダイヤモンド半導体は熱伝導率が約2000 W/mKという驚異的な値を示します。
これは、銅の約5倍、シリコンの約25倍に相当します。
つまり、ダイヤモンド半導体は発生した熱を素早く拡散させることができるため、発熱による性能低下や故障を防ぐことができます。

次に、耐電圧性についてですが、ダイヤモンド半導体は電界効果トランジスタ(FET)として利用される場合、最大で約10 MV/cmという高い耐電圧を示します。これは、シリコンの約10倍です。
ダイヤモンド半導体は高電圧に対しても安定した動作をすることができるため、小型化や省エネ化に貢献します。

最後に、耐放射線性についてですが、ダイヤモンド半導体は放射線による損傷や劣化がほとんど起こりません。これは、ダイヤモンドの結晶構造が非常に強固であるためです。
ダイヤモンド半導体は宇宙空間や原子力発電所などの高放射線環境においても信頼性の高い動作をすることができます。

絶縁体のダイヤモンドをどうやって半導体にしている?

ダイヤモンドは自然界で最も硬い物質の一つであり、絶縁体としての性質を持っています。
しかし、ダイヤモンドの基盤を空気に晒しておくとなぜか電気を通す、半導体としての機能を発揮させることができました。
半導体は電気を通すことも止めることもできる素子であり、コンピュータやスマートフォンなどの電子機器に欠かせません。
現在、半導体の主流はシリコンですが、シリコンに比べてダイヤモンドは高温や高圧に強く、耐食性や耐磨耗性も優れています。
また、ダイヤモンドは熱伝導率が高く、発熱しにくいため、冷却装置の必要性が低くなります。
これらの特徴は、ダイヤモンド半導体がエネルギー効率や信頼性の高いデバイスを実現する可能性を示しています。

しかし、ダイヤモンド半導体の実用化にはまだ多くの課題があります。
まず、ダイヤモンドは絶縁体なので、電気を通すためには特定の物質を注入する必要があります。
しかし、特定の物質を注入するには、ダイヤモンドの結晶構造が硬く結合しているため、注入するのが難しく、技術も確立されていません。
そこで佐賀大学の嘉数教授は、空気中の何に反応してダイヤモンドに電気を通すのか、突き止めるのに成功しました。

それが、二酸化窒素(NO2)です。
二酸化窒素はダイヤモンド表面に吸着すると電子を放出し、表面に負電荷層を形成します。
この負電荷層は電気を通すようになることを突き止めたのです。
この発見により、ダイヤモンドを半導体にする突破口が見えたのです。

もう一つの課題は、ダイヤモンド半導体の大きさです。
現在の技術では、人工的に作ることができるダイヤモンドの基盤は4ミリ角の大きさですが、実用的な半導体デバイスには10センチメートル以上の大きさが必要です。
小さすぎるダイヤモンド半導体の重要な課題だったのです。
しかし、不可能かと思われた基盤の大きさの課題に対して、アダマンド並木精密宝石株式会社の研究員である金さんは8ミリ角の基盤の開発に成功しました。
基盤で半導体を作ったところ、世界記録となる875メガワットを叩き出したのです。
この数字はおよそ17万5千世帯の電気を制御できる計算となります。

その後、金さんの開発により進化を遂げ、最新の基盤では直径5センチになっています。大口径化により応用先はさらに広がるでしょう。

ダイヤモンド半導体は、未来の電子機器に革新的な変化をもたらす可能性を秘めています。
実用化にはまだ多くの技術的なハードルはありますが、テスト段階に入っている応用先もあります。
ダイヤモンド半導体の研究はまだ始まったばかりであり、今後もさまざまな分野の研究者や企業の協力が必要です。

ダイヤモンド半導体の実用化に向けての課題

半導体として利用されるダイヤモンドは人為的に作られた人工ダイヤモンドですが、低コスト基盤とするのが難しく量産性に難があります。
そのため、単に合成できるだけではなく、量産性を備えた独自の製法を確立させる必要があるのです。

他にもデバイスの電流値が理論予想値と比較して低く、デバイスが短寿命となりうることや、ダイヤモンドの性質上、非常に硬いため研磨や加工が困難な点もあります。

しかし、佐賀大学の開発した半導体のパワー回路は190時間連続測定しても特性劣化が見られませんでした。
研磨技術についても開発が進んでおり、金沢大学が2021年にダイヤモンド向けに機械的ダメージフリーの平坦化技術を開発したと発表しています。
このようにダイヤモンド半導体の実用化に向けて研究開発が加速しています。

ダイヤモンド半導体の主な応用分野

ダイヤモンド半導体の主な応用分野は幅広く、その特性によってさまざまな用途で活用されています。以下に、ダイヤモンド半導体の主な応用分野を一般の読者向けに説明します。

電力エレクトロニクス

ダイヤモンド半導体は、高い耐電圧性と熱伝導性を持っており、電力エレクトロニクス分野での応用が期待されています。
これは、高電力を制御し、電力損失を減少させるのに役立ちます。具体的な応用として、電力変換装置や電力供給システムの高効率化が挙げられます。

電子デバイス

ダイヤモンド半導体は高い電子移動度を持つため、高周波電子デバイスの製造に適しています。
これにより、高速通信機器やレーダーシステムの性能向上が期待されるでしょう。
ダイヤモンド半導体は耐放射線性にも優れており、宇宙航空産業での使用にも適しています。

センサー技術

ダイヤモンド半導体は高感度なセンサーの製造に適しており、環境モニタリング、医療機器、およびセキュリティシステムなどの分野で活躍する見込みです。
特に、ダイヤモンド半導体センサーは、化学物質の検出や放射線検出などで優れた性能を発揮するでしょう。

量子コンピューティング

ダイヤモンド半導体は、量子ビットのプラットフォームとしても研究されており、将来の量子コンピューティング技術に貢献する可能性があります。
その高い物理的安定性と長寿命が、量子ビットの実装に向いているからです。
実現すれば、演算速度のスピードアップだけではなく、多くの情報をすべて記録することができます。

通信

ダイヤモンド半導体は、高い周波数の電波を流すことにも長けているため、通信分野での利用が期待されています。
これにより、ビヨンド5Gや6Gなど高速かつ低損失のデータ転送が可能になり、情報通信の効率が向上します。

医療機器

ダイヤモンド半導体センサーは、放射線量の測定に適しているため、放射線を使う医療機器での応用が期待されています。

宇宙技術

ダイヤモンド半導体の耐放射線特性は、宇宙環境での使用にも適しています。宇宙船や人工衛星において、高い信頼性と性能を提供し、宇宙探査技術の向上に寄与します。

自動車運転先進技術

トヨタ自動車とデンソーが出資する車載半導体研究のミライズテクノロジーズは精密部品メーカーのオーブレーとダイヤモンド製パワー半導体の開発に共同研究を行っています。
パワー半導体は電力制御に不可欠で電気自動車向けに需要が拡大しているためです。
ダイヤモンド半導体を使うことで電力損失を減らしつつ、機器を小型化できるとされています。
インバーターに搭載すれば航続距離を伸ばせるそうです。

これらの応用分野において、ダイヤモンド半導体はその特性により新たな可能性を切り開いており、様々な分野で革新的な技術の実現に寄与しています。

ダイヤモンド半導体の可能性

ダイヤモンド半導体は、今後のテクノロジー分野において多くの希望を抱かせる材料です。
その優れた物理的特性により、私たちの生活や産業に革命的な変化をもたらす可能性があります。
高効率の電力変換、量子コンピューティング、高感度センサー技術、光通信の高速化など、多くの分野で応用される見込みです。
佐賀大学の成果をはじめ、世界中の研究機関や企業がダイヤモンド半導体の研究に取り組んでおり、その成果が市場へと広がることでしょう。

この革新的な材料は、私たちの未来に新たな可能性をもたらすことでしょう。
ダイヤモンド半導体の発展を追いかけ、その応用がどのように私たちの日常生活や産業に影響を与えるのか、興味深い展望です。
佐賀大学では4年後の実用化を目指しているとしており、この素材の進化が未来のテクノロジーにどのような変革をもたらすかを期待しています。